当サイトは国税庁・法務省・裁判所などの公開情報をもとに編集部が執筆しています。記事内のサービス紹介には広告を含みます。
親の遺品を片付けていたら、封をした遺言書が出てきた。中を見たら、思っていた分け方と違った。そんな時、どこから手をつければいいか迷いますよね。
結論から言うと、遺言書がある相続は、原則として遺言の内容が法定相続分より優先されます。ただ、家族の納得の度合いによって、その後の進め方は大きく変わります。
この記事では、遺言に納得できるケースとできないケースに分けて、相続の流れと相続税の変わり方が分かります。
遺言書がある相続は、遺言どおりに進むの?
有効な遺言書があれば、相続は遺言の内容どおりに進むのが原則です。家族全員が納得していれば、遺産分割協議をしないまま名義変更まで進められます。取り分が少ない相続人は遺留分を請求でき、相続人全員が合意すれば遺言と違う分け方も選べます。
遺言書が見つかった時点で、家族の受け止め方はだいたい次の4つに分かれます。
| ケース | その後の進め方 | 理由・注意 |
|---|---|---|
| 全員が遺言の内容に納得している | 遺言どおりに名義変更を進める | 遺産分割協議書は原則いらない。遺言書と戸籍で手続きできる |
| 取り分が法定相続分よりかなり少ない人がいる | 遺留分侵害額請求を考える | 兄弟姉妹には遺留分がない。請求は知った時から1年 |
| 全員で話し合って、別の分け方にしたい | 相続人全員の合意で遺産分割協議をする | 1人でも反対すれば遺言どおりになる |
| 遺言そのものが本物か、有効か怪しい | 無効を主張し、話し合い・調停・訴訟へ | 書き方の不備や、作った時の判断能力が争点になる |
『遺言があるなら、もう話し合う余地はないの?』と思う方も多いはずです。実は、遺言どおりに進めるのはあくまで原則で、家族の合意や遺留分によって形を変えられる場面もあるんです。

遺言書が見つかったら、最初にやることは?
遺言書が見つかったら、まずはその種類を確かめます。種類によって、開ける前にやるべきことが違うからです。
| 遺言書の種類 | 見つかる場所 | 家庭裁判所の検認 |
|---|---|---|
| 自筆証書遺言(自宅などで保管) | 自宅の金庫・仏壇・貸金庫など | 必要。収入印紙800円(1通あたり) |
| 自筆証書遺言(法務局で保管) | 法務局。2020年7月10日に始まった保管制度 | 不要 |
| 公正証書遺言 | 公証役場に原本がある | 不要 |
ここが大事なところです。自宅で見つかった自筆の遺言書は、封を開けずに家庭裁判所の検認を受けます。
検認は、遺言書の形や中身をその日の状態で記録しておく手続きです。遺言が有効かどうかを判断する場ではありません。
『家族しかいないし、先に中を見てもいいのでは?』と思ってしまいますよね。ただ、勝手に開けると、ほかの家族から書き換えを疑われるきっかけにもなります。
- 遺言書の種類を確かめる(自筆か公正証書か、法務局に保管されているか)
- 自宅保管の自筆証書遺言なら、家庭裁判所に検認を申し立てる
- 戸籍を集めて相続人を確定する(法定相続情報一覧図があると楽)
- 財産を調べて一覧にする
- 遺言執行者が指定されていれば、その人が中心になって手続きを進める
- 預貯金の解約・不動産の相続登記をする(登記は取得を知った日から3年以内)
- 相続税がかかる家は、亡くなった日の翌日から10か月以内に申告・納付する
遺言書がない場合や、遺言に書かれていない財産がある場合は、その部分だけ相続人全員で遺産分割協議をします。
家族全員が遺言の内容に納得しているケース
いちばん手続きが短く済むのが、このケースです。遺言書が「誰に・どの財産を」をはっきり書いていれば、遺産分割協議書を作らずに名義変更できます。
例えば、夫が亡くなり、妻と子2人が相続人で、「自宅と預金はすべて妻に相続させる」と書いた公正証書遺言があるケース。子どもたちも「お母さんが住み続けるならそれでいい」と考えていれば、妻は遺言書と戸籍で手続きを進められます。
ただ、納得している時でも、次の点は見落としやすいところです。
- 遺言に書かれていない財産(別の口座・株・車など)がないか
- 遺言書に書かれた不動産の表示が、登記簿と合っているか
- 遺言で財産を受け取る人が、すでに亡くなっていないか
- 相続税の申告が必要な遺産額かどうか(基礎控除を超えるか)
見落としやすいのが、遺言で財産を受け取るはずの人が、親より先に亡くなっていたケースです。例えば「自宅は長男に相続させる」と書かれていたのに、長男が先に亡くなっていた場面。
この場合、遺言に別の書き方がない限り、その自宅について遺言は効力を持たないと考えるのが基本です。長男の子が自動的に引き継ぐわけではなく、自宅は相続人全員で分け方を決めることになります。
『遺言があるから安心』と思っていても、こうした穴は意外とあるんです。財産の一覧を作る時に、遺言の中身と1つずつ照らし合わせておきましょう。
遺言に漏れていた財産は、相続人全員で分け方を決めます。その時に作る書類の書き方は、遺産分割協議書を自分で作る時の例文を参考にしてみてください。
遺言どおりに分けると、相続税はいくらになる?
遺言の分け方によって、家族全体で納める相続税は変わります。ここでは、課税価格の合計が1億円、相続人が妻と子2人のケースで比べてみます。
まず、家族全体の相続税の総額は、分け方に関係なく同じです。
| 計算の順番 | 金額 |
|---|---|
| 課税価格の合計 | 1億円 |
| 基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 3人) | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 5,200万円 |
| 相続税の総額 | 630万円 |
この630万円を、実際に受け取った割合で分けて、各人が納めます。妻には配偶者の税額軽減があるので、遺言の中身で納める額が大きく変わるんです。
| 遺言の内容 | 妻の納付額 | 子1の納付額 | 子2の納付額 | 家族の合計 |
|---|---|---|---|---|
| 法定相続分どおり(妻1/2・子1/4ずつ) | 0円 | 157万5,000円 | 157万5,000円 | 315万円 |
| すべて妻に相続させる | 0円 | 0円 | 0円 | 0円 |
| すべて長男に相続させる | 0円 | 630万円 | 0円 | 630万円 |
『全部お母さんにすれば、税金ゼロでいちばん得なのでは?』と感じるかもしれません。ただ、妻が亡くなった時の相続(二次相続)では配偶者の税額軽減が使えず、子どもの税金が重くなることがあります。
もう一つ大事なのが、妻の税額が0円になっても、配偶者の税額軽減を使うには申告が要ることです。「税金がかからないから何もしなくていい」とはならないので、注意しておきましょう。

遺言の内容に納得できない時は、どうすればいい?
遺言の内容に納得できない時、取れる道は3つあります。自分がどのケースにあたるかで、使える手段が違います。
| 納得できない理由 | 取れる手段 | 理由・注意 |
|---|---|---|
| 自分の取り分が少なすぎる・ゼロ | 遺留分侵害額請求 | 兄弟姉妹以外の相続人だけが請求できる。2019年7月1日以降はお金での請求 |
| 分け方を家族で決め直したい | 相続人全員で遺産分割協議 | 全員の合意が条件。遺言で財産を受け取る相続人以外の人がいれば、その人の同意も要る |
| 遺言が本人の意思で書かれたとは思えない | 遺言の無効を主張する | 話し合いでまとまらなければ、家庭裁判所の調停や訴訟で争う |
取り分が少ない時は「遺留分」でいくら取り戻せる?
例えば、1億円の遺産(借金や生前贈与はなし)を「すべて長男に相続させる」という遺言があり、相続人が妻と長男・次男のケース。妻と次男は、遺留分としてお金を請求できます。
| 相続人 | 法定相続分 | 遺留分の割合(全体1/2 × 法定相続分) | 遺留分の額 |
|---|---|---|---|
| 妻 | 1/2 | 1/4 | 2,500万円 |
| 長男 | 1/4 | 1/8 | 遺言で全額を取得 |
| 次男 | 1/4 | 1/8 | 1,250万円 |
一方で、子のいない夫婦の夫が「すべて妻に相続させる」と遺言していたケースでは、夫の兄弟姉妹に遺留分はありません。兄弟姉妹が納得できなくても、遺言どおりに妻がすべてを受け取れます。
遺留分の請求は、相続の開始と自分の取り分が侵害されたことを知った時から1年、相続開始から10年で消えてしまいます。ケース別の金額の出し方は、遺留分はいくら?遺言で外された子・配偶者のケース別計算でくわしく見られます。
家族で分け方を決め直したい時は?
遺言が「長男に自宅、次男に預金」となっていても、兄弟で話して「自宅は売って、お金を半分ずつにしたい」となることもありますよね。
相続人全員が合意すれば、遺言と違う分け方で遺産分割協議をすることができます。例えば、こんな会話から話が進むこともあります。
「お父さんの遺言だと自宅は僕になってるけど、住む予定がないんだ」
「それなら売って、半分ずつにしない?」
ただし、遺言で遺言執行者が決められている場合や、遺言で相続人以外の人に財産が渡る場合は、その人の同意も得ておくのが安全です。誰の同意が要るのか、早めに確かめておきましょう。
遺言そのものが怪しい時は?
遺言の無効を考えるのは、例えばこんな場面です。
- 自筆の遺言なのに、日付や署名が抜けている、押印がない
- 本人とは違う筆跡に見える
- 書いた時期に、本人が内容を理解できる状態だったか疑わしい
- 後から書かれた別の遺言が出てきた(内容が重なる部分は新しい遺言が優先)
『おかしいと思うけど、言い出したら兄弟関係が壊れそう』と迷う方も多いはずです。無効を主張する時は、医療や介護の記録などの証拠集めが中心になります。交渉や調停・訴訟の代理は弁護士の仕事なので、早めに相談してみてください。
兄弟の間でこじれてしまった時の進め方は、相続問題で兄弟ともめた時のケース別の進め方にまとめています。
遺言書がない場合の相続とは、何が違う?
遺言書がない場合、遺産は法定相続分を目安に、相続人全員の話し合いで分けます。遺言書がある場合との違いを並べると、次のとおりです。
| 比べる点 | 遺言書がある場合 | 遺言書がない場合 |
|---|---|---|
| 分け方の決め方 | 遺言の内容が優先 | 相続人全員の遺産分割協議 |
| 遺産分割協議書 | 原則いらない(遺言に漏れた財産は必要) | 必要 |
| 相続人以外への財産 | 遺贈で孫・嫁・内縁の人などにも渡せる | 法定相続人だけが受け取る |
| もめた時の手段 | 遺留分侵害額請求、遺言無効の主張 | 遺産分割調停・審判 |
| 相続税の申告期限 | 亡くなった日の翌日から10か月以内 | 同じ |
遺言で相続人以外の人に財産を渡すことを遺贈と言います。孫や子の配偶者に遺贈する時は、相続税の2割加算がかかる場合があります。違いは遺贈と相続はどっちになる?で確かめられます。
誰が法定相続人になるかは家族構成で決まります。家族図で確かめたい方は、法定相続人は誰になる?家族図10パターンも見てみてください。
遺言どおりに進めても、相続税の申告が必要なケースは?
遺言で分け方が決まっていても、相続税の申告は別に考えます。遺産の合計が基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を超えれば、申告と納付が必要です。
| ケース | 申告は必要? | 理由・注意 |
|---|---|---|
| 遺産の合計が基礎控除以下 | 不要 | 税額が出ないため |
| 遺言ですべて妻に渡し、配偶者の税額軽減で0円 | 必要 | 軽減は申告しないと使えない |
| 自宅の土地に小規模宅地等の特例を使って基礎控除以下になる | 必要 | 特例も申告が条件 |
| 遺言に漏れた財産があり、10か月以内に分け方がまとまらない | 必要 | 法定相続分で仮に申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を出しておく |
遺言で受け取る人が決まっていても、土地の評価や特例が使えるかは家ごとに違います。要件を満たすかは、税理士に確認してみてください。
例えば、遺言で自宅を受け取る人が同居していなかった、という場面。小規模宅地等の特例が使えるかどうかで、相続税が大きく変わることもあります。
遺言の中に土地が入っている、遺産が基礎控除を超えそう、10か月の期限まで時間がない。そんなケースなら、相続税にくわしい税理士に任せると、評価から申告まで一度に片付きます。
税理士ドットコム
わが家のケースは、相続に強い税理士に聞くのが近道
相続税がかかりそう、土地や自宅がある、相続人が多い、期限が近いといったケースでは、相続税に詳しい税理士に早めに相談すると安心です。税理士ドットコムなら、全国7,500名以上の登録税理士から相続に強い税理士を無料で紹介してもらえます。
紹介料無料税理士ドットコムで相続に強い税理士を紹介してもらう(税理士ドットコムの紹介ページに移動します・24時間365日受付)
よくある質問
遺言書と法定相続分では、どちらが優先されますか?
有効な遺言書があれば、遺言の内容が法定相続分より優先されます。ただし、兄弟姉妹以外の相続人には遺留分があり、遺言で取り分が少なくなった人はお金で請求できます。
遺言書があっても、相続人全員の同意で違う分け方にできますか?
相続人全員が合意すれば、遺言と違う分け方で遺産分割協議をすることができます。遺言執行者がいる場合や、相続人以外に財産を受け取る人がいる場合は、その人の同意も確かめておきましょう。
自宅で見つけた遺言書を開けてしまいました。無効になりますか?
開けてしまっただけで遺言が無効になるわけではありません。ただ、自宅で保管されていた自筆の遺言書は、開けた後でも家庭裁判所の検認を受けてから手続きに使います。
遺言で何ももらえなかった兄弟は、遺留分を請求できますか?
亡くなった人の兄弟姉妹には遺留分がありません。子のいない夫婦で「すべて妻に」という遺言があれば、兄弟姉妹は遺留分を請求できません。
遺言どおりに分けて相続税が0円なら、申告しなくていいですか?
遺産の合計が基礎控除以下なら申告は不要です。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使って0円になる場合は、申告が必要です。
まとめ
- 有効な遺言書があれば、相続は遺言どおりに進むのが原則
- 自宅保管の自筆証書遺言は、開けずに家庭裁判所で検認を受ける
- 取り分が少ない人は遺留分を請求できる(兄弟姉妹は除く・知った時から1年)
- 相続人全員が合意すれば、遺言と違う分け方も選べる
- 遺言の分け方で相続税の納付額は変わり、配偶者の軽減を使うなら0円でも申告が要る




